4福音書冒頭読み比べ

ここでは4つの福音書の冒頭部分(つまり1章1節)を読み比べてながら、それぞれの福音史家が 
どのような人を対象にこれを書き、どのような背景をもっているのかを大胆に推測していこう。

 たとえば、マルコ。
 マルコは「神の子イエス・キリストの福音の始まり」といういともシンプルな書き出しで始まる。
とにかく簡潔なのである。そして洗礼者ヨハネの紹介から始まる。
 ここではたと気づく人がいる。「そうか、イエスの誕生の部分から始まっていないのか」この疑問
は素朴だが大きな疑問である。
 ここでは「福音」という言葉が「よき便り」「Good News」という意味であることを説明する。
 そしてなぜ、このイエスのもたらしたものが「福音」であるのかを考えることが聖書を読む目的で
あることを説明する。

 そしてマタイ。
 マタイはイエス・キリストの系図から始まる。つまりイエスがダビドの家系から生まれたことを強
調する。
 これはなぜか? 考えてみる。旧約の預言が成就したことをここで知らせたいということは旧約聖
書をよく知っているユダヤ人を対象として書かれたことを示している。
 そのあとイエス・誕生の場面について触れているが、これは次のルカとの比較のところでまた考え
ることを予告する。

 ルカは「尊敬するテオフィロ様」に宛てた手紙の形で書かれている。どうもこの人はローマに住む
外国人であるようだ。つまりユダヤ人ではない外国人に当てられたものであるらしい。その始まりは
洗礼者ヨハネの誕生から、マリアへのお告げへと話が展開し、イエスの誕生へと話が続く。

 ヨハネの書き出しは有名な「はじめに言葉があった」という文章である。この言葉はロゴスという
ギリシャ哲学の概念であることを説明する。つまり明らかにこれはギリシャ思想を意識して書かれて
いるのである。抽象的、哲学的な書き出しである。
 そのあと洗礼者ヨハネの紹介から話が始まる。

 同じ福音書でありながら、どうしてこのように書き出し方が異なるのか。4人の福音書の記者たち
の性格から、生まれ、育ち、教養の程度の違いなどについていろいろ推測してみる。
 いろいろと想像が進んだあとに教える側から4つの福音書のできた背景と性格について提示する。
 マルコが一番最初に書かれ、その時代は60年代だと推測されるということ、それからマタイとル
カがほぼ同じ頃80年ごろ、そして最後にヨハネが100年頃書かれたものであるということもここ
で説明する。

 それにしても、イエスが厩のなかで誕生したというあの有名なクリスマスの話しは、どうしてルカ
にしかないのだろうか? なぜほかの福音書ではこのイエスの誕生の場面がないのだろうか、気にな
るところである。