妬みの神 or 熱情の神


出エジプト記の「十戒」を授かるところにある神様がご自分について述べられた言葉の訳が興味深い
。(20章5節 34章14節)

「私は、私を憎む者に対しては、父の罪を三代、四代の子にまで及ぼして罰する、ねたみ深い神であ
る。」(20章5節)(バルバロ訳講談社版)
その解説には「真理そのものである神は、偽りのものを堪え忍ぶことができない」とある。
「おまえは他の神の前にひれ伏してはならぬ。主は『ねたむ神』と呼ばれ、ねたみ深い神だからであ
る」(34章14節)

問題は新共同訳である。
「あなたはそれに向かってひれ伏したり、それらに仕えたりしてはならない。私は主、あなたの神、
私は熱情の神である」(20章5節)
「あなたはほかの神を拝んではならない。主はその名を熱情といい熱情の神である。」(34章14
節)

「ねたみ深い神」が新共同訳では「熱情の神」となっている。
きっとここは新共同訳では訳者同士の意見が分かれたところであろうと推定される。新訳では「心の
貧しい人」そして旧約ではここでしょうね。
 そこで他の訳や英語ではどうなるかと手に入るあらゆる聖書を調べてみた。

聖書協会訳
「あなたの神、主であるわたしは、ねたむ神であるから、わたしを憎むものには、父の罪を子に報い
て、三、四代に及ぼし……………。」
「主はその名を『ねたみ』といって、ねたむ神だからである。」

聖書刊行会訳
「あなたの神、主であるわたしは、ねたむ神、私を憎むものには、父のとがを子に報い、三代、四代
まで及ぼし、…………」
「あばたはほかの神を拝んではならないからである。その名がねたみである主は、ねたむ神であるか
ら」

フランシスコ会
「おまえの神、ヤーウェである私はねたみの神であり、私を憎む父の悪を子に報い、三代、四代まで
にまでおよぼし…………………」
解説 「ねたみ」という表現は、神がイスラエルの民に対して、夫に対する妻の絶対的貞節のような
忠節を要求していることをさう。
「おまえは他の神を拝んではならない。ヤーウェとはねたむもので、ねたむ神であるからである。」

聖書協会文語訳
「之を拝むべからずこれに事ふべからず我エホバ汝の神は嫉む神なれば我を悪むものにむかひては父
の罪を子にむくいて三四代におよぼし………」
「汝は他の神を拝むべからず其はエホバはその名を嫉みと言ひて嫉妬神なればなり」

リビングバイブル訳
「あなたの神はこのわたしだけだ。わたしは嫉妬深いから、わたしとほかの神を同時に愛することは
許さない」
「わたし以外には、どんな神々をも拝んではならない。わたしは絶対の忠誠と。心からの献身を求め
る神である」

The Bible Revised Standard Version
You shall not bow down to them or worship them; for I the Lord your God
am a jealous God, visiting the iniquinity of the fathers upon the
children to the third and forth generation of those who hate me.
for you shall worship no other god , for the Lord, whose name is
jealous (God)

Good News Bible
Do not bow down to any idol or worship it,because I am the Lord your
God and I tolerate no rivals
Do not worship anu other god, because I, the Lord, tolerate no rivals.

The Jerusalem Bible
You shall not bow down to them or serve them. For I Yahweh your God, am
a jealous God and I punish the fathers' fault in the sons, the
grandsons and the great-grandsons of those who hate me.
You shall bow down to no other god, for Yahweh's name is the Jealous
One: he is a jealous God.

Living Bible
You must never bow to an image or worship in any way; for I, the Lord
your God, am very possessive. I will not share your affection with any
other god!
For you must worship no other gods, but only Jehovah, for he is a God
who claims absolute loyalty and exclusive devotion.

こう読み比べてみると、圧倒的に「嫉妬深い神」が多いことがわかるであろう。
英語では「jealous」「possessive」という形容詞が使われている。
リビング・バイブルだけはちょっと異なった訳をしているが、わたしはこの訳がいちばんいいと思う

もっとも原文はどうなっているのかを知りたいところである。
ただしどう見ても「熱情の神」は違うのではないか、と思う。どうして「新共同訳」ではこう訳して
いるのだろうか?
あれこれと推測はできるが……………。

わたしは個人的には、神は「ねたみ」という名前なのだと思う。とにかく旧約の神は嫉妬深いことは
確かである。
神さまがそういう自己認識を持っておられるということがどこかほほえましい。
こんなことを言ってはいけないことなのだろうか。

ついでだが、「十戒」の「汝…………するなかれ」のところを英語版ではいろいろな訳をしているこ
とにも気づく。
You shall not kill.
Do not kill.
You must not kill.
どこかで読んだことだが、「十戒」は「こんなにも神さまから愛されているのだから、あなたは人を
殺すはずがない」というような「命令文」であるらしい。
こういう意味からいうと、You shall not ....という言い方がもっとも適当ということとなるが、ど
うだろうか。